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遺伝子組み換え(GM)作物の現状は?日本での取り扱いやメリット・デメリットを解説


遺伝子組み換え(GM)作物にどのようなイメージを持っていますか?一口に遺伝子組み換え作物といっても、その種類はさまざまです。GMの利活用で、人や環境にはどのような影響が出るのでしょうか。遺伝子組み換え作物の現状や作物の例についてもじっくり解説します。
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塩基配列

出典:写真AC
「遺伝子組み換え作物」について、皆さんはどのくらいの知識を有していますか?賛否両論が巻き起こりがちなこの作物は、どのような技術で生まれたものなのか、利用することのメリットやデメリットについても農業者はしっかりと理解しておく必要があります。
遺伝子組み換え作物にはどのようなものがあるのか、作物の例や、日本での取り扱いの現状などについてもお伝えします。

従来の品種改良(育種)と遺伝子組み換えの違い

トウモロコシ
出典:写真AC
日本での品種改良(育種)は従来、野生の植物から育種したい種を選抜して交配させ、栽培するための種を作り上げてきました。品種改良(育種)は、生産性の向上や食味などの品質向上を目的として、現在もなお行われています。
長年の品種改良(育種)によって収量が増え、かつ耐病・耐寒・耐塩・耐倒伏性などの特徴を持つ品種が数多く生まれました。

交配による品種改良(育種)の方法(従来の方法)

例えば、「収量が多くしかも寒さに強い」品種を作りたいとき、交配による育種では「収量が少ないが寒さに強い」品種と「収量は多いが寒さに弱い」品種を掛け合わせて、目的の能力を持つ種が出るまで選抜と交配を繰り返していきます。

遺伝子組み換え技術による作物の特性の変化

研究者
出典:pixabay
一方、遺伝子組み換え技術による改良では、生物が持つDNAを細胞の外で切断・結合したり、DNAを細胞内に導入したりして遺伝暗号を変え、品種の持つ特徴を変えます。生物が持つ遺伝子は、植物も人間も、すべての生物で共通しています。遺伝子組み換え技術を用いることで、あらゆる生物の遺伝子を利用して品種改良を行うことができるといいます。

これを農作物に応用して生まれたのが遺伝子組み換え作物(GMO:Genetically Modified Organism)です。この遺伝子組み換え作物を原材料とする加工食品や遺伝子組み換え作物は、「遺伝子組み換え食品」とも呼ばれています。

遺伝子組み換え(GM)作物の歴史はアメリカから始まった

ワンワールドトレードセンター
出典:写真AC
遺伝子組み換え作物の商業栽培は1996年にアメリカで本格的に開始され、年々その面積を増やしています。2019年10月の農林水産省の資料「遺伝子組換え農作物の管理について」には、2018年における世界の遺伝子組み換え作物の栽培面積は約1億9千万ha(日本の農地面積の約43倍)に上ったことが明記されています。

遺伝子組み換え作物の一例

作物の種類としては、世界の遺伝子組み換え作物の栽培面積の半数を占めるのが大豆で、次いでトウモロコシ、ワタ、セイヨウナタネと続きます。近年では、ジャガイモやリンゴ、サトウキビなども栽培されています。そのほか、イネ、ササゲ、ベニバナ、バナナなどで、遺伝子組み換え作物の開発が行われています。

商業栽培されている遺伝子組み換え作物の中で、主流となっているのが特定の除草剤(グリホサート、グルホシネートなど)に強い「除草剤耐性作物」と、害虫を防ぐ「害虫抵抗性作物」です。さらに、特定の栄養成分が多く含まれている作物、干ばつに強い小麦なども実用化されています。

1. 除草剤に耐性のある遺伝子組み換え作物

グリホサートやグルホシネートなど特定の除草剤は、植物の生育に欠かせないアミノ酸を合成する酵素の働きを阻害して雑草を生長させないようにします。除草剤に耐性のある遺伝子組み換え作物は、この除草剤の影響を受けない酵素を生成する遺伝子が導入されているため、除草剤の影響を受けることなく育ちます。


2. 害虫の増殖や食害を抑える害虫抵抗性作物

害虫抵抗性作物は、一定の昆虫類が増えないよう、幼虫が食べると分解できないタンパク質を生成する遺伝子が導入された作物です。しかしこのタンパク質は、人間やその他の哺乳類が食べても分解できます。

3. ウイルス抵抗性作物

ウイルスに感染しにくい形質が付与された遺伝子組み換え作物です。ウイルス抵抗性作物としてはパパイヤが実用化されており、パパイヤリングスポットウイルスに抵抗性がある遺伝子組み換えパパイヤがハワイ島などで栽培されています。

4. 特定の栄養素を多く含む遺伝子組み換え作物

特定の栄養素を多く含む遺伝子組み換え作物には、血中のコレステロール値を低下させる効果が期待できるオレイン酸を多く含む、高オレイン酸含有大豆や、家畜の飼料に転嫁するアミノ酸の量を減らせる高リシントウモロコシなどがあります。


遺伝子組み換え作物のメリットとデメリット|農薬やアレルギーは大丈夫?

掌にのせられた大豆
出典:Pixabay
このように遺伝子組み換え作物は、特定の作物の収量や栄養素を増やしたり、病害虫に強くして栽培しやすくしたりするために誕生しました。国内外でさまざまな意見がありますが、遺伝子組み換え作物にはどのようなメリットとデメリットが存在しているのでしょうか。

遺伝子組み換え作物のメリット

遺伝子組み換え作物の利点は、「従来の品種改良よりも素早く、求める特性を持った作物を作れる」点にあります。病害虫や寒冷、乾燥、塩害などに強く収量が安定するなどのほか、農薬の使用量も抑制できます。

交配による改良に比べ素早く求める特性を持った作物を作れる

従来の品種改良では、求める特性を持った作物を作り上げるまでに長い月日が必要でした。遺伝子組み換え作物であれば、人工的に遺伝子を組み換えるため、改良範囲の拡大や改良期間の短縮にもつながります。

生産性と収量の向上

遺伝子組み換え作物は、作業の効率化にも役立ちます。除草剤は、作物と生えている雑草、散布時期によって種類を変えなければなりませんが、前述の除草剤に耐性のある遺伝子組み換え作物なら単一の除草剤だけで作物の生育を阻害することなく除草効果を得られます。

害虫に抵抗性のある作物を作れば、殺虫剤を散布する必要がなくなり農薬散布の手間と費用を省けるのです。近年の気温・気象など地球環境の変化への対応も期待されています。

食糧問題の解決の一助に

貧困 少女
出典:Pixabay
また、遺伝子組み換え作物は人口爆発による食糧問題を解決する手段としても期待されています。現在、地球上には約70億もの人間が暮らしていますが、うち13億人が貧困層で、約8億5千万人が飢饉や栄養失調に苦しんでいるといいます。
世界的な食糧問題を解決するためには、2050年までに収量を現在の1.7倍に伸ばす必要があります。しかし、これは伝統的な手法のみでは不可能な数字です。遺伝子組み換え作物を含め、何らかの新たな技術を取り入れなければならないでしょう。

遺伝子組み換え作物のデメリット

生物多様性への影響

遺伝子組み換え作物のデメリットとして、考えなければならないのが「生物多様性への影響」です。遺伝子組み換え作物が雑草化してしまった場合、野生植物とは異なる性質からほかの野生植物を駆逐する可能性が考えられます。
また、野生の動植物に対して有害な物質を生産したり、野生植物と交雑して新たな植物へと変化したりといった影響が出るかもしれません。

人体への影響が気になるとの声も

遺伝子組み換え作物
出典:Pixabay
除草剤に耐性のある作物は除草剤の過剰使用が、害虫抵抗性作物では害虫の幼虫がその作物を食べると死んでしまうことから、人体への安全性を消費者が懸念しています。また、アレルギーの原因が主にタンパク質にあることから、組み込まれた遺伝子から作られるタンパク質がアレルギーの原因にならないかといった不安の声もあります。

このような消費者の声に対し、厚生労働省は「組み込んだ遺伝子によってつくられるタンパク質の安全性や組み込んだ遺伝子が間接的に作用し、有害物質などを作る可能性がないことが確認されていますので、食べ続けても問題はありません」(引用:遺伝子組み換え食品の安全性について|厚生労働省)と遺伝子組み換え食品に関するパンフレット内に明記しています。

遺伝子組み換え作物の輸入時も、安全が確認されていない遺伝子組み換え食品が市場に出回らないように、確認が行われています。安全性という面からみれば、ほかの食材・食品と同じく、一定の基準をクリアしたものしか輸入されないのです。
とはいえ、アメリカで商業栽培が始まって約25年。遺伝子組み換え作物・遺伝子組み換え食品の歴史はまだ浅いのも確かです。安全性についての研究は、遺伝子組み換え作物が利用される限り今後も続けられていくことでしょう。

日本の遺伝子組み換え(GM)作物の現状は?安全性評価の仕組みと今後

船舶
出典:Pixabay
日本では、遺伝子組み換え作物が生物多様性に影響を与えないかを「カルタヘナ法」で、食品としての安全性評価を「食品安全基本法」「食品衛生法」で、家畜の飼料としての安全性評価を「飼料安全法」「食品安全基本法」でそれぞれ評価したうえで、安全性が確認されたもののみ輸入、流通、栽培などが行われています。

日本で承認されている遺伝子組み換え食品は、トウモロコシやイネ、セイヨウナタネ、大豆などを含め14の作物で、中には栽培可能な作物もあります。遺伝子組み換え作物の研究や開発が今後も進むのか、それとも遺伝子組み換え以外の新たな技術が生まれるのか。未来はまだ未知数ですが、すでに広く利用されている遺伝子組み換え作物について、農業者が理解しておく必要がありそうです。

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この記事の筆者:
高橋 みゆき

北海道在住のフリーライター。北海道の畑作農家に生まれ、高校卒業後に農業協同組合に入組。JAでは貯金共済課の共済係として、窓口にて主に組合員の生命保険・損害保険の取り扱いをしていました。退組後、2013年まで酪農業に従事。現在はスマート農業に興味津々。テクノロジーを活用した農業についてお伝えしていければと思います。

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