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「環境にやさしい」をファッション化したらブームは去る!?|おしゃれじゃないサステナブル日記No.40


【連載】農業・食コミュニケーターとして活動する 紀平真理子さんの「農業と環境」をテーマにしたコラム「おしゃれじゃないサステナブル日記」。 第40回は「環境にやさしい」をファッション化したらブームは去る!? 環境について表現するときに気をつけたいことについて、筆者の思いをつづります。
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環境負荷の軽減

写真提供:maru communicate 紀平真理子
前回、前々回はみどりの食料システム戦略について「有機」や「オーガニック」という言葉から考えました。

環境のことを考えたり発信したりすることは、とても大事だと思います。先日、ハッとする出来事があったので、今回はその出来事を紹介しながら、「環境」について表現するときに気をつけたいことを記録します。

ハチのことを話せば社会性があるように見える?

ハチを守る
写真提供:maru communicate 紀平真理子
オランダに住む友人が、マッチングサイトで出会ったいろいろな人とデートをしていたのですが、「会う人みんなが口をそろえて『ハチが減っているから環境にやさしくする』と言っていて何か気持ち悪い」と話していました。その人たちは、ハチとアブの見分けもついていなかったようです…。

この話で気になるところは、本当にハチを守るうんぬんではなく、「ハチを守る」と発言することが、自分自身を社会的だと演出するためのアピールになってしまっているのだとしたら…本当にハチの減少に尽力している人たちにとっては、うれしいことなのでしょうか。

環境負荷の軽減をファッション化させたくない

オランダ養鶏
写真提供:maru communicate 紀平真理子
ハチの例のように、自分を演出するためのツールとして、「環境にやさしく」という話をみんながするようになってしまったら、それが本当の意味で未来につながることだとは思えません。とはいえ、少しでも多くの人に知ってもらいたいと思い活動している人たちがいることも事実だし、少しでも人びとの心持ちが変わるのであれば意味があるとも思うので難しいところです。

懸念点は、ファッション化してしまったら、ブームは去る傾向にあることです。オランダでオーガニックを売りにしていた飲食店が、軒並みプラントベース(植物由来の原材料からつくられた食べもの)を売りにし始めたように…。

派手ではなく、わかりにくくても、環境への負荷を軽減するために地道にコツコツと積み上げていく生産者や企業、組織を、陰ながらコソコソと応援できる社会であってほしいと願います。そのためには、わかりにくくても、回りくどくてもきちんと伝えることを大切にしていきたいです。

環境について表現することの難しさ

排液循環UV
写真提供:maru communicate 紀平真理子(排液循環のUV処理)
農業活動において、環境負荷を可能な限り低減することは課題だし、とても大切だと思います。しかし、その活動を表現するときには注意をしなければいけないことを改めて感じます。環境って非常にわかりにくい!私も、今まで相当間違えて言葉を使用しています。

農業に関わる人たちは、わかりにくい環境という言葉や環境への負荷軽減を、わかりやす過ぎる言葉に置き換えて世間を混乱させてしまわないためにも、今一度しっかり考えたいですね。

たとえば、わかりやすい環境負荷の低減事例として、施設園芸における加温のための燃料を化石燃料からバイオマスエネルギーに変えることにより「二酸化炭素の排出量を○○%削減」というものがあります。この表現は事実であり、もちろんアピールすることは問題ないと考えています。

しかし、LCA(ライフサイクルアセスメント)で見ると、そのバイオマス原料の採取や加工、輸送をそれぞれ計算して環境負荷がどの程度軽減されているのかを注視する必要がありますし、「バイオマスを使用しているから環境にやさしい」といえるかどうかについては、その言葉を口に出す前に自問する必要がありそうです。先日、「環境にやさしい」や「地球にやさしい」という表現は、たたく側の視点で、農業活動におけるさまざまな環境への負荷軽減のための活動は、今までグーでたたいていた人がパーでたたいて、「私はやさしいでしょ」って言っているようなものだと指摘されました。その事実を教えてくれたやさしい人にパーでたたかれた気分です。

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おしゃれじゃないサステナブル日記

紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate

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この記事の筆者:
紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。

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