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土だけを解決すればいいわけじゃない?生物多様性と農業|おしゃれじゃないサステナブル日記No.19


【連載】農業・食コミュニケーターとして活動する 紀平真理子さんの「農業と環境」をテーマにしたコラム「おしゃれじゃないサステナブル日記」。第19回は「土だけを解決すればいいわけじゃない?生物多様性と農業」 環境保全のためには多様な生物の存在が重要視されていますが、農業の「土」に関しての生物多様性については、必ずしもそうではない?のかも!?
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土作り

写真提供:maru communicate 紀平真理子(オランダフレボランド州の土)
前回の「環境にいいのは、全員有機?農家数カット?(No.18)」では、Land sharing(土地の共有)とLand sparing(土地の節約)について思案しました。

今回は、土壌についてです。この日記を書こうと思ったきっかけは、おしゃれじゃないサステナブル日記公開後に、「土壌中の生物多様性は、栽培においては、多様性が必要なく有用微生物に占められた方がいい」というご意見をいただき、「農業における土って何だ?生物多様性って?」という疑問が湧きあがってきたからです。

「多様性がなく有用微生物に占められた方がいい」という点については、生産性の視点なのか、環境配慮の視点なのか。また、単年か長期視点なのかなど、私の力量では「いい」の中身を分解できませんでしたが、いいテーマをいただいたので、土や生物多様性についてグルグルと考えてみようと思います。

土壌の生物多様性とは?

生物多様性
写真提供:maru communicate 紀平真理子
まず、農業分野でよく語られる「生物多様性」とは何でしょうか。生物多様性とは、生きものたちの豊かな個性とつながりのことで、1980年代末にできた概念です。1993年に、日本が生物多様性に関する条約加盟国となり、1995年に生物多様性保全に関する国家戦略を策定しました。個人的には「かなり最近の概念のわりには、市民権を得ているな」という感想を持ちました。
生物多様性条約では、生態系の多様性(森林、里地里山など)・種の多様性(動植物、微生物、細菌など)・遺伝子の多様性(同じ種でも異なる遺伝子)という3つのレベルで多様性があるとしています。農業における土壌の生物多様性とは、土壌中の微生物などを指すことが多いです。

栽培方法にかかわらず、農業を営む時点で不自然

アイルランドの農業
写真提供:maru communicate 紀平真理子(アイルランドでは、よく農業できるなと何回も思った)
そもそも、いただいたご意見が気になった理由は、矛盾を感じたからです。土耕栽培の場合は、栽培方法問わず「生物多様性を守り、利用する」という大きな流れがありますが、土壌中の微生物の種類を限定・コントロールするという点が引っかかりました。

ただ、よく考えてみると、環境制御が可能な施設栽培においても、栽培に起因するさまざまな要因をコントロールしていますし、慣行栽培でも有機栽培でも自然栽培だって人の手が入った時点で、コントロールの度合いが違うだけで自然ではないわけです。
本当の自然とは、まったく人の手が介入していないことが前提です。でも、人が手を入れることで守られる自然があることもまた是なりということで、突き詰めれば「農業を営む時点で、程度の差はあれど不自然である」ということで合点が行きました。

土壌微生物と土壌診断

隔離培地
写真提供:maru communicate 紀平真理子
農家の方には釈迦に説法ですが、さらっと土壌についてふれます。土壌の地力とは、団粒構造や保水性、排水性などの「物理的要因」、窒素、リン酸、カリや、pH(土壌の酸性度)やEC(電気伝導率)などの「化学的要因」、そして有機物の分解力や窒素の固定力など「生物学的要因」を満たしたものをいいます。土の中には、1グラムあたり10億を超える微生物が生息しているともいわれています。

通常、土壌診断では土壌を分析して養分などの過不足を確認します。その数値を参考に肥料を投入する量を決めるために実施されます。診断は、農家では物理性を確認し、分析に出すものに関しては主に化学性の分析がされます。最近では、生物性について微生物のDNA数などから土壌の生物性を数値化する手法もあります。

露地栽培:IPMアプローチで総合的に管理

これは、取材をする中で「おもしろいな」と個人的に考えている定性的なものですが、露地栽培で土づくりをしっかりされている方から、IPM(総合的病害虫・雑草管理)のようなアプローチが広がったことで、土の中だけが絶対的なものではなくなり、土の機能を単純化・数値化する手法は以前より夢のような手法ではなくなっている気がする、という話を聞きます。


施設園芸:環境制御だけでなく、隔離培地にも目を向ける

一方で、環境制御バリバリで施設園芸をされている方から、制御のきく地上部だけではなく、隔離培地を使った養液栽培(土ではなく、ココピートやロックウールなどを培地として使用)であっても、温度、湿度、日射などの地上部だけのコントロールでなく、地下部(根張りや、隔離培地の排水性、空気含有量)にも目を向け始めた、というお話も聞きます。

結局、農業はどんな栽培手法であっても、さまざまな要素が絡んでおり、一つの側面のみですべて解決できるわけではありません。だからこそ、異なる栽培方法から学べることも多々あるように思います。

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紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate

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この記事の筆者:
紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。

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