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耕さない「不耕起栽培」は環境にいいの?|おしゃれじゃないサステナブル日記No.20


【連載】農業・食コミュニケーターとして活動する 紀平真理子さんの「農業と環境」をテーマにしたコラム「おしゃれじゃないサステナブル日記」。第20回は「耕さない「不耕起栽培」は環境にいいの?」 「農業は土を耕すのが基本」そんな概念も、環境問題の観点からヨーロッパでは大規模農家の不耕起栽培も増えているのだとか?!
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窓に飾られた植物のイラストたち

写真提供:maru communicate 紀平真理子(同じ植物でも、生まれ育った国が変われば見え方が変わる)
前回の「土だけを解決すればいいわけじゃない?生物多様性と農業(No.19)」では、土についてあれこれいいました。

今回も土についてですが、お付き合いください。「不耕起栽培って何?」「不耕起栽培は環境にやさしいの?」という視点で土について想いを言葉にします。

耕さない「不耕起栽培」って何?

不耕起栽培の畑
出典:写真AC
欧米では近年、大規模栽培であっても耕さない「不耕起栽培」や、耕起を最小限にする「省耕起栽培」が採用されています。

不耕起栽培は、基本的には土壌を耕さないので、作物の残さや土壌有機物の分解が遅れます。また、土壌侵食が抑制されるため、土壌表層の炭素貯留の効果が高いともいわれています。これを聞いて、何か違和感ありませんか?私は農業は耕してナンボだと思っていました。

不耕起栽培は環境にやさしいの?

ベルギーの農業展示会で展示されたトラクター
写真提供:maru communicate 紀平真理子(ベルギーの農業展示会にて)
土壌中の炭素貯留が多いということは、空気中に出ていく量が少ない、すなわち二酸化炭素の排出量が少なくなります。この側面においては「不耕起栽培は環境によい」といえます。

さらに不耕起栽培は、耕さないことで土壌水分の保持や土壌微生物の増加による「生物多様性の保全」や土壌肥沃土の向上に効果があるともいわれています。また、耕さない=トラクターの走行回数が少なくてすむので、燃料の節減といった側面でも環境にやさしいのではないでしょうか。

一方で、「土壌の物理性」の視点から考えると、不耕起栽培は耕さない分、ふかふかの土ではなくカチカチになるので、これはデメリットになります。


不耕起栽培には除草剤が必要?

不耕起栽培
写真提供:maru communicate 紀平真理子(迷子になるならこんなところがいい)
「環境にいい/悪い」の「環境」を何に設定するかで、農業資材や機械の要否も変わります。水?空気?土?さらに、もっと細分化していくと完全に森の中で迷子になります。

仮に環境を「二酸化炭素排出量の低減」に設定し、比較的大規模で食料生産を行い環境配慮のために不耕起栽培を選択した場合、耕さないので雑草も繁茂します。そこで不耕起栽培を実現するためには、除草剤で処理をするというのが一般的になっています。フランスでは、一部の除草剤を禁止すると発表しましたが、その数カ月後に同国の農水大臣が「除草剤がなければ、環境保全型農業はできない」と発言したりと、多様な農法を実現するためにも現段階においては、除草剤はどこの国でも必要なようです。

農法も資材も組み合わせ

ラウンドアップ
出典:shutterstock
生産者はそれぞれ目標をもって選択する農法や資材を変えているのだと思っています。不耕起栽培という農法は、数多くある選択肢の一つに過ぎないし、その農法を実現するための資材も数多ある中の一つです。環境への配慮だけでなく、健全な経営や安定供給、人によっては顧客満足など(かなりざっくりしたいい方ですが)などさまざまな要素を熟考しています。さらにそこから「環境への配慮」という項目に関しては、「じゃあ環境への配慮のためには何をする?」など具体化していきます。あくまでも一例ですが、農法だけでなく、露地栽培なら圃場の管理方法やトラクターのオペレーション、施設園芸なら排液や培地の処理の方法など、超細かい多岐にわたる選択肢が存在します。そのうえで、それぞれが農法や資材、やり方を採用しているのだなぁと感じている今日この頃です。


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おしゃれじゃないサステナブル日記

紀平真理子(きひらまりこ)プロフィール
1985年生まれ。大学ではスペイン・ラテンアメリカ哲学を専攻し、卒業後はコンタクトレンズメーカーにて国内、海外営業に携わる。2011年にオランダ アムステルダムに移住したことをきっかけに、農業界に足を踏み入れる。2013年より雑誌『農業経営者』、ジャガイモ専門誌『ポテカル』にて執筆を開始。『AGRI FACT』編集。取材活動と並行してオランダの大学院にて農村開発(農村部におけるコミュニケーション・イノベーション)を専攻し、修士号取得。2016年に帰国したのち、静岡県浜松市を拠点にmaru communicateを立ち上げ、農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートなどを行う。食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー試験合格。著書『FOOD&BABY世界の赤ちゃんとたべもの』
趣味は大相撲観戦と音楽。行ってみたい国はアルゼンチン、ブータン、ルワンダ、南アフリカ。
ウェブサイト:maru communicate

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この記事の筆者:
紀平 真理子

オランダ大学院にて、開発学(農村部におけるイノベーション・コミュニケーション専攻)修士卒業。農業・食コミュニケーターとして、農業関連事業サポートやイベントコーディネートなどを行うmaru communicate代表。 食の6次産業化プロデュ ーサーレベル3認定。日本政策金融公庫農業経営アドバイザー試験合格。 農業専門誌など、他メディアでも執筆中。

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