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接ぎ木は優れたトマトを栽培するための知恵【小規模農家が実践する収量アップの秘訣】


接ぎ木は穂木と台木と呼ばれる2つの品種の苗を接ぎ合わせる方法。おいしくて病気に強いトマトをつくるのに欠かせない技術です。接ぎ木苗にはどんなメリットがあるのか、自分で接ぎ木するのがいいのか、現役のトマト農家が解説します。
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ミニトマト

出典:写真AC
近年の農業の現場において必要不可欠となっているのが「接ぎ木」の技術。果樹をはじめスイカやキュウリなど多くの品目で接ぎ木栽培が行われています。
トマトでも、さまざまなメリットをもたらす接ぎ木栽培は広く普及。今では無くてはならない技術となっています。
今回は、トマトを長期間おいしく育てるための接ぎ木について解説していきます。

接ぎ木とはどんな技術か

トマトの接ぎ木苗
撮影:梶原甲亮
トマトの中には、味はおいしいけれど病害虫に弱い品種が存在します。一方で、たとえ味はイマイチでも病気に強く根を良く張る品種もあります。
このような2つの品種の苗を接ぎ合わせ、お互いの長所を生かし「味はおいしくて病気に強い」トマトをつくる技術。それが接ぎ木です。

接ぎ木の実がなる方を「穂木」、根がある方を「台木」と呼びます。
穂木と台木の茎をそれぞれ切断しくっつけることで、互いの維管束がつながり、台木の根から吸収した水や養分を穂木に行き渡らせることができます。

ちなみに、接ぎ木をせずにタネから発芽して生長した苗のことを「自根苗」といいます。

なぜ接ぎ木が必要か

トマトうどんこ病
撮影:梶原甲亮

病害虫や連作障害を防ぐ

トマトがかかりやすいの土壌感染性の病害虫は、青枯病、萎凋病、褐色根腐病、ネコブセンチュウなど、いくつも存在します。
また、毎年同じ畑でトマトを栽培していると、特定の微生物や養分が減少して生育が悪くなったり病害虫が増えたりする連作障害が発生するようになります。
連作障害を出さないようにするために、畑をいくつかに区切りローテーションさせることで連作を回避する方法がありますが、畑やビニールハウスなどの資材などもその分必要になり、誰もがその方法を取れるわけではありません。病害虫や連作障害を回避する手段として接ぎ木はとても有効です。

私が就農したばかりのころ、栽培したい品種のトマトがあって自根苗から育てていました。すると、一部の樹から半身萎凋病が発生して、みるみるうちにほかの樹に感染しハウス1棟が全滅した経験があります。
すべて接ぎ木苗でトマトを栽培するようにしてからは、半身萎凋病が発生したことはなく、接ぎ木の有効性を身をもって実感しました。

台木の種類は特徴を押さえて選ぶ

一口に台木といっても多種多様な特徴があります。
台木の品種によって吸肥力や吸水力が異なり、草勢がおとなしいものから強いものまでありますし、特定の病気や害虫に耐性を持つものなどさまざまです。
台木を選ぶ際は、生育コントロールのしやすさ、栽培時期、病害虫の発生リスクなどの観点から選定するのがポイントになります。

ちなみに私が台木を選ぶ際に重視しているのは、初期の草勢がおとなしめで、近年圃場で増えてきているネコブセンチュウに耐性がある品種です。皆さんが台木を選ぶ際も、ご自身の圃場や栽培スタイルに適したものを選定してください。

自分で接ぎ木する?しない?

接ぎ木
出典:写真AC
接ぎ木は、自分でやろうと思えばできないことはありません。しかし、それなりの技術や手間が必要となります。
では、接ぎ木は自分ですべきか。それとも、接ぎ木苗を購入すべきか。

結論からいえば、接ぎ木苗を購入することをおすすめします。
トマト栽培の経験が浅い方や家庭菜園で少量栽培されるだけの方などは、園芸店やホームセンターなどで接ぎ木苗を購入して育ててみる方が良いでしょう。

接ぎ木苗を購入した方が良い理由は、トマトを自分で接ぐ場合、1株を栽培するのに穂木と台木の両方を用意しなければならないのと、自分で苗を接ぐ作業も必要なので手間もかかるためです。
また、苗の切断・活着の仕方にもコツが要りますし、次いだ後の養生処理にもかなり気をつかいますので、ハードルは決して低くありません。
プロのトマト農家でも、品種にこだわりがある人や、苗を接ぐ作業も自分でやりたい人でない限り、接ぎ木苗を購入する農家が多いです。

一方で、接ぎ木苗は自根苗に比べ価格が高いのがデメリット。接ぎ木苗を購入する際には、苗が接いである部分をよく見て密着しているかどうか、しっかり接いであるかどうかを確認するようにしてください。

それでも「自分で接ぎ木をしてみたい」という方もいると思います。その場合は、接ぎ木作業に慣れている方から指導を受けることをおすすめします。


接ぎ木はますます有益な技術になる

トマト接ぎ木苗仮植
撮影:梶原甲亮
接ぎ木は古くから農業の現場でその技術が培われ、今では品質向上や耐病性の向上のなどのために無くてならないものとなりました。
従来は、同系統の植物でないと接ぎ木できないというのが常識でしたが、最近では、異なる系統の植物でも接ぎ木が可能になる技術が開発されつつあります。
接ぎ木技術がさらに進展していけば、これまで栽培できなかった土地でも栽培が可能になるなど、農業の可能性がさらに広がっていくかもしれませんね。

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この記事の筆者:
梶原 甲亮

熊本県山都町在住。代々続く農家の7代目。九州大学法学部を卒業して熊本県庁に就職。子どもが生まれ、食への関心が高まると共に「安心安全な食べ物を届けたい」「農業を夢のある仕事にしたい」という想いでUターン。現在、3兄弟の父親として日々学びながら農業に取り組んでいます!

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