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農業法人を設立するには?【第4回】青ネギビジネスに可能性を見出し「稼げる農業」で業界のリーディングカンパニーに


徳島県阿波市で青ネギを生産するアイ・エス・フーズ徳島株式会社。代表の酒井貴弘さん(27)は21歳で就農し、兵庫県の淡路島で父親とともにアイ・エス・フーズ株式会社を設立。24歳のとき、単身乗り込んだ徳島でアイ・エス・フーズ徳島を立ち上げ、3期目で売上1.2億円まで成長させました。事業拡大の根底にある酒井さんの理念は「儲かる農業のモデル会社」。農業界のリーディングカンパニーを目指しています。
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アイ・エス・フーズ徳島 酒井さん

撮影:AGRI PICK編集部
徳島県阿波市で青ネギを生産するアイ・エス・フーズ徳島株式会社。代表の酒井貴弘さんは21歳で就農し、兵庫県の淡路島で父親とともにアイ・エス・フーズ株式会社を設立。24歳でアイ・エス・フーズ徳島を立ち上げ、3期目で売上1.2億円まで成長させました。

家族経営の農家が法人化を目指すのは、税制面や融資でのメリットを考えてのことが多いですが、酒井さんの場合は、そもそも農業をビジネスととらえ、そこに商機を見出した点に特徴があります。

農業ビジネスの未来を直感し、法人を立ち上げ

酒井さん
酒井さん
昔から周りより目立ちたいと思っていました。一度きりの人生、自分の名前を残せるようなことがしたい!


そう語る酒井さんですが、当初は農業を仕事にすることに興味はありませんでした。

最初の就職先は民間企業

酒井さんは兵庫県の淡路島に位置する南あわじ市の出身。玉ねぎの産地として有名な地で、酒井さんの母と祖母も玉ねぎやレタス、米などを栽培する農家を営んでいますが、汚れる仕事が多く、休みも取れない農家はカッコ悪いと思っていたそうです。高校卒業後は民間企業に就職しました。

「農業は儲かるビジネスだ!」人生の転機が訪れる

農業に対する印象が変わったのは父の恵司さんが青ネギ栽培を始めてから。3年目の決算書を見せられ、農業は儲かるビジネスだと直感して21歳で農業の道に進みました。酒井さんが合流するこのタイミングで法人化に踏み切ったのは、この事業がうまく行くと見越したためです。
アイ・エス・フーズ株式会社の立ち上げに際しては、手続きを行政書士に依頼しました。

農地を求めて徳島県で農業参入

アイ・エス・フーズ徳島 車両
撮影:AGRI PICK編集部

単身、徳島県へ進出して別会社を立ち上げる

法人化から3年間、淡路島で事業を拡大してきたアイ・エス・フーズですが、淡路島はもともと農業の盛んな土地。島内で農地を拡大することに限界を感じ、隣接する徳島県に進出することにしました。
酒井さん
酒井さん
徳島にはアイ・エス・フーズの契約農家があり、耕作放棄地が増え、後継者も少ないという話を聞いていました。規模拡大、リスク分散、結婚などが重なって徳島で始めることになりました。


トラクターと軽トラの2台だけを持って、単身、徳島県阿波市に乗り込んだ酒井さんは当時23歳。アイ・エス・フーズ徳島を立ち上げたのは24歳になったのと同時でした。
酒井さん
酒井さん
本社からの資本金300万円で新しい会社を設立し、スタートしました。助成金は情報を知らなかったので使いませんでした。


別会社化したのはベトナム人の技能実習生を受け入れるためでもありました。外国人技能実習生は1社あたりが受け入れできる人数が限定されているのです。
法人化によって地域の金融機関や徳島県農業法人協会から信頼を得られ、融資が受けやすくなったり、取材の紹介をしてもらったりといった利点もありました。

20aからのスタート

アイ・エス・フーズ徳島スタート時の農地はわずか20a。当初は酒井さんが23歳と非常に若かったこと、また土地柄もあってか、地域の人からは信頼されず、市にも相談しましたが相手にされなかったといいます。農地の管理、青ネギの品質にもこだわって信頼を積み重ね、農地を広げてきました。
酒井さん
酒井さん
借りた以上は、と農地は徹底的に管理しました。夜もヘッドライトを着けて除草作業を行っていました。


淡路島時代につながりのあった農機メーカー・クボタの所長に地権者を紹介してもらったのもプラスになりました。
酒井さん
酒井さん
とてもよくしてくださって。本当に人に恵まれました。


現在、農地面積は14haまで広がり、売上も1.2億円と順調です。
圃場は段階的に拡大していったため、3地点に分散しています。農地の分散は移動時間などデメリットに思われがちですが、酒井さんは病気の蔓延や天災などのリスク分散の点でメリットととらえています。

経営者の想いに共感した若い人材が入社

アイ・エス・フーズ徳島 作業風景
撮影:AGRI PICK編集部

若者をひきつけるのはビジョンと待遇

アイ・エス・フーズ徳島には、正社員8名、ベトナム人技能実習生8名、パート11名の従業員がいます。徳島県外の出身者も多く、若い経営者と、そのビジョンに共感し、将来性を感じて入社しているといえます。初任給20万、週休二日制という制度も魅力的に映るのでしょう。酒井さんが子どものころ、土日も家族が農業をしていて遊びに連れて行ってもらったことがなかったり、就職した会社の待遇が働きに見合わないものだったりといった経験から、雇用環境の充実には力を入れています。
酒井さん
酒井さん
法人化して対外的な信頼が得られる経営基盤を築くことも大切ですが、社内で働く人のための制度をきちんとしないと長続きしないと思っていました。


なくてはならない存在というベトナム人の技能実習生にも、徳島県の最低賃金を上回る給与を支払っています。

自主性を尊重する社風で従業員が成長

酒井さんはアイ・エス・フーズ徳島の従業員には芯が強い人が多い印象を持っているそうです。彼らの自主性を大切にし、どんどん仕事を任せています。県内に新たに法人を立ち上げる予定ですが、経営はその中の一人に任せるつもりです。
酒井さん
酒井さん
経営者一人の力は限られています。優秀な従業員に助けられたのが一番です。

設立4年目。未来を見据えた次の戦略

アイ・エス・フーズ徳島 新社屋建設地
撮影:AGRI PICK編集部
飛ぶ鳥を落とす勢いで成長し、4期目に入ったアイ・エス・フーズ徳島は、さらなる成長を目指します。現在、阿波市に新社屋を建設中。2021年には徳島市内にも新たな拠点を設ける予定です。

ASIAGAP認証を取得

日本食ブームに後押しされ、海外進出を見据えてASIAGAP認証を取得しました。アジアを皮切りに、最終的にはヨーロッパ進出を目指しています。
酒井さん
酒井さん
日本の農産物は安心安全といわれてはいますが、GAP認証でそれが明確化できると思いました。栽培管理の体系化や社内の整理整頓、作業場の安全確保のためにも役立ちました。

青ネギ単作から多角化へ

近年の激しい気候変動により、青ネギだけではリスクがあると思えてきたという酒井さんは、施設栽培などほかの品目を検討しています。

栽培を従業員に任せ経営に注力

一方で地固めの必要な時期とも考えています。栽培を任せられる人材も育ち、酒井さんは今期から経営に専念することにしました。財務面を強化する必要を感じコンサルティングを依頼。組織運営の軸となり社内外の信頼獲得にも欠かせない経営理念の策定や、従業員がキャリアアップできる人事制度の構築も図っています。

儲かる農業のモデル会社に

アイ・エス・フーズ徳島 圃場
撮影:AGRI PICK編集部
当初から一貫してビジネスマン目線で農業に携わってきた酒井さん。近年、注目され新規就農者や参入企業も増えている農業界ですが、その経営は易しくないと語ります。
酒井さん
酒井さん
農業は天候に左右されるリスクがあるので経営が難しい。農業を通して何をしたいのかを明確化していないと農業経営はできないと思います。


そんな酒井さんが掲げる理念は、「儲かる農業のモデル会社」。日本の農業界のリーディングカンパニーを目指しています。今では阿波市も応援してくれています。
酒井さん
酒井さん
(アイ・エス・フーズ徳島は)阿波市になくてはならない法人と言っていただいてうれしかったです。今後は儲かる農業のモデル化をしていきたいです。


徳島に少しでも恩返しがしたいと、若手の育成を狙うJAバンク徳島や徳島県農業法人協会などが後援するオンラインイベント「JAバンク徳島次世代農業サミット」にも参画しました。
2021年1月14日にクボタが開催するオンラインイベント「GROUNDBREAKERSー日本農業の未来へー」にも、農業経営者の取り組み事例として登場予定です。

クボタ2021新春オンラインイベント「GROUNDBREAKERSー日本農業の未来へー」詳細と参加申し込みはこちらから。
クボタGROUNDBREAKERSバナー
※参加には事前登録が必要です。

法人化はあくまでスタートライン。農業ビジネスの成功に必要なものとは

アイ・エス・フーズ徳島 酒井さん
撮影:AGRI PICK編集部
法人化には節税や資金調達の手段という面もありますが、運営していくには経営者としてのビジネス感覚が必要です。目先の利点を追求するのではなく、自分のもとに集まった従業員の生活を守りたい、農業を通じて何かを成し遂げたいというリーダーの強い信念が、農業ビジネスを成功に導くのではないでしょうか。

農業法人情報(2020年11月現在)
・名称:アイ・エス・フーズ徳島株式会社
・所在地:徳島県阿波市
・法人設立:2018年4月
・資本金:300万円
・従業員数:27名
・栽培面積:14ha
・栽培品目:青ネギ
・販売量:600t
・売上高:1.2億円

連載「農業法人を設立するには?」バックナンバーはこちら。
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この記事の筆者:
AGRI PICK 編集部

AGRI PICKの運営・編集スタッフ。農業者や家庭菜園・ガーデニングを楽しむ方に向けて、栽培のコツや便利な農作業グッズなどのお役立ち情報を配信しています。これから農業を始めたい・学びたい方に向けた、栽培の基礎知識や、農業の求人・就農に関する情報も。

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