症状からわかるイチゴの害虫


イチゴの果実を食害したり、ウイルス媒介をもたらし病気を発症させたりする害虫。加害部位とそこに現れる被害症状から、害虫そのものは見えなくても原因を判別できるよう、現れる部位ごとのイチゴの被害・症状を説明します。
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イチゴ栽培

出典:Flickr (Photo by Jay Cross)
イチゴは種子から育てるほかにも、親株から伸びる「ランナー」と呼ばれる走出枝(そうしゅつし)によって子株に栄養を送りながら増殖することができる作物(栄養繁殖)なので、子株や孫株にまで害虫の被害を渡したくないものです。このイチゴを食害する害虫ではハダニ類が大きな問題となっていますが、ほかにもイチゴの果実を食害する害虫や根・芽に寄生するセンチュウ類なども収量や品質に大きな影響を与えるので防除対策が必要です。ここではイチゴの注意すべき害虫をその被害部位の特徴と合わせて説明します。

本記事は教育機関で講師を勤められ、数多くの病害虫についての書籍を執筆されている草間先生に監修いただきました。

▼イチゴの育て方ならこちらをご覧ください。

監修者 草間祐輔(くさまゆうすけ)先生のプロフィール

草間祐輔先生
画像提供:草間祐輔先生

主な経歴:
・長野県松本市生まれ
・千葉大学園芸学部卒業
・米国ロサンゼルス郊外のナーセリー&ガーデンセンター(観賞植物生産・小売業)に勤務後、家庭園芸農薬肥料メーカーに在職。
〜植物の病害虫防除や肥料ついて研鑽(けんさん)を積み、講習会などで広く実践的な指導を行っている。
・千葉大学園芸学部非常勤講師。千葉県立農業大学校非常勤講師。東京農業大学グリーンアカデミー非常勤講師。テクノ・ホルティ園芸専門学校非常勤講師。日本ガーデンデザイン専門学校非常勤講師。
〜業界では農薬の安全・適正使用の普及や指導を行う(公社)緑の安全推進協会認定・緑の安全管理士、及び同協会講師としても活動する。
〜趣味は植物の病気、害虫の写真撮影。身近に出くわす被害症状にこだわり、20年来、撮影している。

主な著書:
「だれでもわかる 病害虫防除対策」(万来舎)
「野菜・果樹の病害虫防除」(誠文堂新光社)
「症状と原因が写真でわかる 野菜の病害虫ハンドブック」(家の光協会)
「症状と原因が写真でわかる 庭木・花木・果樹の病害虫ハンドブック」(家の光協会)
「写真で見つける病害虫対策ブック」(NHK出版)
「人にもやさしい病害虫防除」(講談社)
「植物の病気と害虫 防ぎ方・なおし方」(主婦の友社)など多数。
現在、NHK「趣味の園芸」テキストで「今月気をつけたい病気と害虫」を連載中。初心者にも分かりやすい写真と解説に定評がある。

イチゴの葉・茎に被害を及ぼす害虫

ここではイチゴの葉や茎を加害する害虫をその被害の様子と合わせて紹介します。

ダニ類

イチゴを加害するナミハダニ
ハダニ

チャノホコリダニに加害されたイチゴ葉
チャノホコリダニ

【害虫名】
ナミハダニ、カンザワハダニ、チャノホコリダニなど
【食害の様子】
ダニ類は主に葉裏に寄生します。ダニ類に吸汁された痕(あと)は、葉の色素が抜けて白い小斑点になります。ハダニ類は糸を吐きながら歩行するので、被害が進むと葉が糸で覆われてしまいます。
チャノホコリダニは主に新芽や若い葉を吸汁します。吸汁された部分は萎縮・奇形化し、さらに被害が進むと芯止まり症状になります。
【予防と対策】
ハダニ類を防除する方法
※上記リンク先の記事で紹介されている「コロマイト乳剤」をイチゴに使用する場合、親株床以外では使用しないように注意してください。
チャノホコリダニを防除する方法
※上記リンク先の記事で紹介されている「サンクリスタル乳剤」「アファーム乳剤」はイチゴには使用できますが、イチゴのチャノホコリダニの適用はありません。
ダニ類を防除する方法


アブラムシ類

イチゴを加害するワタアブラムシ
ワタアブラムシ

イチゴネアブラムシが寄生したイチゴ
イチゴネアブラムシ

【害虫名】
ワタアブラムシ、イチゴケナガアブラムシ、モモアカアブラムシ、イチゴネアブラムシなど
【食害の様子】
新芽や葉、葉柄などに多数のアブラムシが寄生して吸汁加害します。若い葉では葉が巻く、縮れるなどの被害が現れます。また、ウイルス病を媒介したり、多量の排泄物によってすす病を発生させたりするなど、間接的な被害も大きな問題となっています。
イチゴネアブラムシは、アリと共生して地際の葉柄部分に「コロニー」を作り、群生してイチゴの生育を阻害します。地際の寄生部分は盛り上がったように土で覆われます。
【予防と対策】
アブラムシ類を防除する方法

▼すす病のことならこちらをご覧ください。

アザミウマ類

イチゴを加害するアザミウマ

【害虫名】
チャノキイロアザミウマ、ミカンキイロアザミウマなど
【食害の様子】
アザミウマ類は葉や花、果実などに寄生して吸汁被害をもたらします。
チャノキイロアザミウマによる葉の被害は葉脈に沿って黒色に変色します。ミカンキイロアザミウマでは花弁やガクが縮れたり、変色したりします。
【予防と対策】
アザミウマ類を防除する方法
※上記リンク先の記事で紹介されている「コテツフロアブル」にはミカンキイロアザミウマの適用があります。「モスピラン粒剤」はイチゴには使用できますが、イチゴのアザミウマ類の適用はありません


ヨトウムシ類

ハスモンヨトウに加害されたイチゴ

【害虫名】
ハスモンヨトウ、ヨトウガなど
【食害の様子】
集団で新芽や葉を食害します。ふ化したばかりの若齢幼虫は葉裏から表皮を残して食害するため、被害葉では白っぽいカスリ状の痕が見られます。齢数が上がるとともに摂食量も増えるので、葉に穴をあけたり、葉脈を残して食い尽くしてしまったりすることもあります。
【予防と対策】
ヨトウムシ類を防除する方法
※上記リンク先の記事で紹介されている「スピノエース顆粒水和剤」「ディアナSC」はイチゴには使用できますが、イチゴのヨトウムシ類の適用はありません


コナジラミ類

コナジラミに加害されたイチゴ葉

【害虫名】
オンシツコナジラミ、タバココナジラミなど
【食害の様子】
オンシツコナジラミ大量に発生すると葉の表面がコナジラミ類の排泄物で黒くすす状に汚れるので、すす病発生の原因となったり、葉が汚れることで光合成が阻害されたりするなどの被害が出ます。
露地栽培よりも施設栽培で発生することが多く、一部の地域で多発しています。
【予防と対策】
コナジラミ類を防除する方法
※上記リンク先の記事で紹介されている「ツヤトップ」にはオンシツコナジラミの適用があります「ベストガード粒剤」はイチゴには使用できますが、イチゴのコナジラミ類の適用はありません


クロモンキノメイガ

クロモンキノメイガに加害されたイチゴの葉

【害虫名】
クロモンキノメイガ
【食害の様子】
幼虫が葉裏から表皮を残して食害するため、食害部分は透けてみえます。齢数とともに食害痕が大きくなり、糸を吐いて葉をつづったり巻いたりして内側に潜んで食害することもあります。
【予防と対策】
広食性であるため、ほかの寄主植物から侵入しないように周辺の除草を適切に行います。黄褐色の成虫や幼虫を見つけた際は捕殺し、食害によって透けた葉や糸でつづられた場合は、葉に潜んでいる可能性があるので切り取って処分します。


タバコガ類

オオタバコガに加害されたイチゴ葉

【害虫名】
オオタバコガなど
【食害の様子】
葉などに一つずつ卵を産み付けられ、ふ化した幼虫が新芽や葉茎などを食害します。若齢幼虫では葉の表皮を食べますが、成長すると摂食量が増して葉に穴をあけるようになります。
同じような大きさの害虫にシロイチモジヨトウがいますが、タバコガ類の幼虫には体にまばらに剛毛(ごうもう)が生えていることから見分けることができます。
【予防と対策】
タバコガ類を防除する方法
※上記リンク先の記事で紹介されている「フェニックス顆粒水和剤」「プレオフロアブル」にはオオタバコガの適用があります「ディアナSC」はイチゴには使用できますが、イチゴのタバコガ類の適用はありません


葉・茎を食害するほかの注意すべき害虫

上記の害虫以外にも発生することがある害虫について紹介します。

センチュウ類

【害虫名】
イチゴメセンチュウ、イチゴセンチュウなど
【食害の様子】
これらのセンチュウは株元の芽の部分に寄生し、親株から出たランナーによって伝播(でんぱ)します。
被害株では葉がゆがんだように変形したり、葉柄が湾曲したりします。次第に葉縁は褐変していき、さらに被害が進むと芽や葉柄が赤みを帯びて短小化・萎縮して枯死することもあります。
多発時には蕾(つぼみ)や果実が付きにくくなり、収量・品質に大きな被害を与えます。
【予防と対策】
薬剤散布は育苗期から定植後の生育初期に行います。栽培中のイチゴに被害株を確認した際は、早期に抜き取り、焼却処分するなどしてセンチュウ類を圃場に残さないようにします。また、寄生された親株から発生した子株は育苗に使用しないように注意しましょう。


イチゴの果実や花に被害を及ぼす害虫

ここではイチゴの果実や花を加害する害虫をその被害の様子と合わせて紹介します。

アザミウマ類

ミカンキイロアザミウマに加害されたイチゴ果実

【害虫名】
チャノキイロアザミウマ、ヒラズハナアザミウマ、ミカンキイロアザミウマなど
【食害の様子】
花弁やガクなど花の組織内に多数の卵を産卵して一気に増殖し、果実の表面、種子周辺のくぼみなどに寄生していきます。
アザミウマ類が花を食害すると変色や萎縮、奇形となります。被害が果実に移行すると退色や褐変が生じ、多発すると肥大が抑制されてしまいます。
【予防と対策】
アザミウマ類を防除する方法
※上記リンク先の記事で紹介されている「モスピラン粒剤」はイチゴには使用できますが、イチゴのアザミウマ類の適用はありません


ナメクジ類

ナメクジに加害されたイチゴ

【害虫名】
ノハラナメクジ、チャコウラナメクジなど
【食害の様子】
ナメクジ類によって果実をかじりとられた穴の周辺には、光沢のある粘液が残ります。
果実を直接加害するので、ナメクジ類の食害を受けるとイチゴは商品価値がなくなってしまいます。
【予防と対策】
多湿を好み、日中は物陰にかくれて夜間に活動をします。過湿状態にしないよう適切な水分管理を行いましょう。


タバコガ類

オオタバコガに加害されたイチゴ果実

【害虫名】
オオタバコガなど
【食害の様子】
幼虫が果実を食害してえぐり取ったような痕を残します。一匹の幼虫が複数の果実を渡り歩いて加害するので、発生数が少なくても大きな被害が生じます。
【予防と対策】
タバコガ類を防除する方法
※上記リンク先の記事で紹介されている「フェニックス顆粒水和剤」「プレオフロアブル」にはオオタバコガの適用があります「ディアナSC」はイチゴには使用できますが、イチゴのタバコガ類の適用はありません


果実に被害を及ぼすほかの注意すべき害虫

上記の害虫以外にも発生することがある害虫について紹介します。

ダニ類

【害虫名】
チャノホコリダニなど
【食害の様子】
幼果に寄生して吸汁被害をもたらします。吸汁されると果実は褐色になって表面が硬くなり、生育・肥大が止まってしまうこともあります。
【予防と対策】
チャノホコリダニを防除する方法
※上記リンク先の記事で紹介されている「サンクリスタル乳剤」「アファーム乳剤」はイチゴには使用できますが、イチゴのチャノホコリダニの適用はありません。
ダニ類を防除する方法


イチゴの主に花托に被害を及ぼす害虫

主にイチゴの花托(かたく)を加害する害虫について紹介します。

ハエ類

チビクロバネキノコバエの被害を受けたイチゴ

【害虫名】
チビクロバネキノコバエなど
【食害の様子】
クラウン部が常に湿りカビが発生しやすい箇所に多く産卵します。ふ化した幼虫が、花托を食害すると黒く変化して果実の肥大が妨げられます。
育苗期から発生しますが、被害をうけた株では下葉の葉柄部分が赤くなるのが特徴的で、苗自体への重大な被害には至らないようです。
【予防と対策】
定植後の苗からの持ち込みや、ハウス外からの飛び込みにより主に株元周辺で繁殖・増殖し、葉柄の基部には白いウジ虫のような幼虫が確認されることもあるので、まずは育苗期の防除と圃場内への侵入を防ぐことが重要です。
防虫ネットや黄色粘着板の利用や周辺の雑草、植物残渣(ざんさ)、堆肥などを適切に管理することが有効です。寄生を発見したら、その部位を除去し適切に処分しましょう。
※残渣とは圃場などに残った生育(栽培)を終え枯れた植物体。


イチゴの根に被害を及ぼす害虫

ここではイチゴの根を加害する害虫をその被害の様子と合わせて紹介します。

センチュウ類

ネコブセンチュウに寄生されたイチゴ株

【害虫名】
キタネコブセンチュウ、クルミネグサレセンチュウなど
【食害の様子】
ネコブセンチュウ類が寄生すると根の組織が膨れ上がり、コブができます。さらにコブから細いひげのような小根が出るのが特徴です。多発して被害が大きくなると生育不良となり、ひどい場合枯死してしまいます。
ネグサレセンチュウ類が寄生すると根が腐敗してします。地上部では葉の縁が赤褐色になり、だんだんと全体が紫褐色になります。被害が進むと根が腐敗し、株全体が萎凋(いちょう)して枯死してしまいます。
【予防と対策】
センチュウ類の被害リスクがある場合は、事前に土壌消毒することが有効です。
センチュウ類を防除する方法
※上記リンク先の記事で紹介されている「ネマトリンエース粒剤」にはイチゴのネグサレセンチュウの適用があります。

▼土壌消毒のことならこちらをご覧ください。

根を食害するほかの注意すべき害虫

上記の害虫以外にも発生することがある害虫について紹介します。

コガネムシ類

【害虫名】
ドウガネブイブイ、オオクロコガネなど
【食害の様子】
地中に生息している幼虫が根を加害します。親株の根やランナーから出た根を食害し、生育不良や枯死をもたらします。
【予防と対策】
コガネムシ類を防除する方法
※上記リンク先の記事で紹介されている「バイオトピア」はイチゴには使用できますが、イチゴのコガネムシ幼虫の適用はありません


ハダニ類やチョウ目害虫など、重要害虫の対策を確実に実施しましょう

収穫イチゴ
出典:Flickr (Photo by Fried Dough
イチゴ栽培では重要病害虫のハダニ類、アブラムシ類、アザミウマ類、ハスモンヨトウやオオタバコガなどのチョウ目害虫に注意が必要です。特にハダニ類やアブラムシ類などでは、薬剤抵抗性の発達が顕著なので農薬以外の総合的な防除が欠かせません。予防対策を適切に行って、できる限り害虫の発生リスクを減らし、発生してしまった際には早期に害虫の種類を見極めて適切な防除を実施しましょう。

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この記事の筆者:
村田 康允

大阪府茨木市出身。大学院農学研究科で農業害虫を扱った研究に取り組み、博士号を取得。国際学会・ワークショップや応用研究プロジェクトなどに積極的に参加。 幼少期から持つ生物への興味とこれまでの経験を活かして、栽培・農薬・害虫などの記事編集を担当。 好きなことは音楽で遊ぶこと。

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