目次
ここでは、ドローンを農薬散布に使用する際に必要な許可や、使用上の注意点についてご紹介します。
ドローンの農薬散布に必要な資格や免許はない
ドローンを農業に活用するにあたって、必要な資格や免許はありません。しかし、日本政府は2022年をめどに、ドローン操縦の免許制度を設ける方針を明らかにしました。現時点では専門的な知識を勉強して免許を取得する必要はありませんが、安全に利用するためにも操作方法やドローンに関する基礎知識があると良いでしょう。また、農薬を散布する前には国土交通大臣による承認が必要です。
ドローンの操作について詳しく知りたい場合は、事前に講習などを受講しておくことをおすすめします。
ドローンで散布できる農薬
ドローンは積載重量が少なく、薬剤タンクの容量が小さいため、高濃度・少量での散布が可能な農薬が適しています。ドローンに適した農薬は、農林水産省のWebサイトや独立法人農林水産消費安全技術センターの農薬登録情報提供システムで確認できます。
農林水産省「ドローンで使用可能な農薬」
農薬登録情報提供システム
ドローンと航空法、国土交通大臣への許可申請
ドローンを使用して農薬を空中散布する場合、事前に国土交通大臣への許可・承認の申請を行わなければなりません。航空法におけるドローンの飛行ルール
航空法の対象になるドローンは、200g以上で人が乗ることができない、遠隔操作・自動操縦が可能な飛行機、回転翼航空機です。ドローンはマルチコプター型の回転翼航空機にあたります。農薬を散布しないドローンの場合、以下に当てはまらない空域では許可なく飛行が可能です。
1. 空港周辺の上空の空域
2. 人口集中地区の上空
3. 150m以上の高さの空域
ただし、農薬を散布するドローンは航空法にて「危険物輸送」「物件投下」に該当するため、必ず国土交通大臣の承認が必要となります。
ドローンによる農薬散布は10開庁日前までに申請が必要
ドローンを用いて農薬を散布する場合、散布予定日の少なくとも10開庁日前までに申請を行わなければなりません。申請はオンライン、郵送、持参または機体メーカーや販売代理店などの代行者でも可能です。申請の際には、ドローンの機能・性能、操縦者の飛行経歴・知識・技能、飛行マニュアルなど空中散布に係る安全確保体制など、資料の提出が求められます。危険物輸送、物件投下(農薬散布飛行)承認申請の申請書記載例
申請は省略・代行者による申請も可
申請時の提出資料は一部省略可能で、申請自体もドローン販売店などに代行を依頼できます。ドローンの飛行に関する申請が難しい場合には、ドローン購入時に「資料の一部を省略できる機種はあるか」「申請を代行してもらえるか」販売店に確認してみましょう。申請時に省略できる資料などについては、以下のリンクより詳細を確認できます。・ドローンの機能・性能に関する資料の一部を省略できる無人航空機一覧
・操縦者の飛行経歴・知識・技能に関する資料の一部を省略できる「無人後期の講習団体及び管理団体」の講習一覧
・空中散布に係る安全確保体制に関する資料の一部を省略できる「航空局標準マニュアル(空中散布)」
ドローンと農薬取締法「空中散布に係る安全ガイドライン」の確認を
ドローンを使って農薬を散布する場合、農薬取締法に基づき、農作物や人畜、周辺環境に危険や被害を及ぼさないよう適正に使用する責務があります。このことから、ドローンを使った農薬散布を行う場合には、ガイドラインに沿って次の点に注意しなければなりません。農林水産省のWebサイトは必読!
「無人航空機(無人ヘリコプター等)による農薬等の空中散布に関する情報」として、ルールや関連情報がまとめられています。随時更新されますので、最新情報を確認しましょう。農林水産省「無人航空機(無人ヘリコプター等)による農薬等の空中散布に関する情報」
空中散布の計画書を作成する
農薬の空中散布を行う人は、実施区域周辺の地理的状況や耕作状況など、作業環境を勘案して農薬を散布する区域を設定します。さらに散布薬剤の種類や剤型の選定を行い、実施場所、実施予定日、農薬を散布する作物名、散布農薬名、10aあたりの使用料または希釈倍数を記載した計画書を作成します。散布を他社・他者に委託する場合には、委託先と連携しながら空中散布の計画を立ててください。
周辺地域の施設や住人に情報提供を行う
また、農薬を散布する圃場の周辺に学校や病院などの公共施設、家屋、蜜蜂の巣箱などがある場合には、各施設の利用者などに農薬を散布する計画を伝えるとともに、連絡先などの情報を提供します。ドローンによる農薬散布に関する注意事項
農薬散布にドローンを使用する場合は、以下の点に注意しましょう。これらは「空中散布に係る安全ガイドライン」にも記載されています。・農薬の散布中に第三者が立ち入らないように注意喚起する
・操縦者はドローンの操作方法・機能・性能について取扱説明書などにより理解しておく
・操縦者は気象条件の変化を随時確認し、農薬ラベルに表示される使用方法を遵守し散布区域外への飛散(ドリフト)が起こらないように注意する
・ドリフトを防ぐために、架線などの危険個所や実施除外区域をあらかじめ実地で確認する
・散布装置が適正に散布できるか使用前に確認しておく
・収穫時期に近い場合は、周辺地域に危被害を加えないように無風または風が弱い日に実施する。農薬の種類を変更するなど、農薬が飛散しないように細心の注意を払う
・強風により散布作業が困難な場合には気象条件が安定するまで待機する
・操縦者、補助者の農薬暴露を回避するために、防護装備を着用する
など
事故が起きてしまったら
ドローンによる農薬の散布中、万が一事故が発生してしまった場合は次のように対応しましょう。ドリフトなどの農薬事故
ドリフト(農薬飛散)などの農薬事故が発生した場合には、事故報告書を作成して、都道府県農薬指導部局に報告書を提出する必要があります。なぜ事故が起こったのか、被害状況や再発防止策についてを記載した報告書を作成し、提出しましょう。ドローンとの接触によるケガや第三者の物件の損傷など
ドローンによるケガや衝突などの事故が発生した場合は、すぐに飛行の許可などを行った地方空港局保安部運用課または空港事務所に事故を報告します。ドローン使用時は要注意!実は事故が多い?
小型で扱いやすいドローンは、一見すると大きな事故を起こさないように思えますが、国土交通省に連絡のあったものだけでも77件の事故が発生しています(平成31年)。事故の原因は一体どのようなものだったのでしょうか。家屋の外壁に接触した岡山県の例
防除のために無人航空機を飛行させていたところ、家屋の外壁に接触してドローンが墜落してしまった例です。幸いにも負傷者はいませんでした。事故を起こしてしまった原因は、飛行経路の障害物の有無を十分に確認していなかったことに加え、操縦者と補助者の連携不足にあったと考えられています。電柱に接触した北海道の例
農薬の空中散布を行っていたところ、ドローンが電柱に接触し墜落してしまった例です。こちらも負傷者はいませんでした。事故の原因は、機体の方向転換時の操縦ミスとされています。人が負傷した広島県の例
空中散布のためにドローンを飛行させていたところ、着陸時に風にあおられた機体が横転して、操縦者が右手中指を骨折した例です。第三者の負傷はありませんでしたが、生産者自身がドローンでケガをしてしまうこともあります。ドローンでの農薬散布における注意点は
これらの事故の原因から、ドローン操縦時に気を付けたいポイントが見えてきます。ドローンを飛行させる前に周囲の安全確認を行うこと
ドローン使用のガイドラインにもある通り、ドローンの飛行前には周囲をよく確認して、飛行する範囲に建物や電線がないか注意しましょう。ドローンを飛ばしている最中に人が入ってこないように、注意喚起を行うことも大切です。農薬散布前に必ず試運転を
ドローンの操縦をしたことがない方は、事前に飛行練習を行いましょう。ドローンの操作に慣れている方でも、点検・整備を行ったうえで、万が一を想定して農薬の散布前に試運転を行い、ドローンに不具合などがないか確認してから散布しましょう。操縦者と補助者の連携を密に
計画外の場所に農薬を散布してしまった、ドローンが電柱に接触してしまったなどの事故が起こらないよう、補助者は常に操縦者と連携を取りましょう。農業用のドローンの活用・購入・維持費用、補助金は?
農業用ドローンを利用する際には、初期コストのほかにランニングコストも発生します。どのような費用がかかるのか詳しく見ていきましょう。ドローン操縦の講習費用
ドローンを使用する前に、しっかりとスキルと知識を身につけたいのなら、産業用ドローンのオペレーター養成スクールなどで基礎を学びましょう。費用は教習所によってまちまちですが、おおよそ10~30万円ほどかかります。ドローンの購入費用
農業用ドローンの価格は、50~200万円程度です。薬液を入れるタンクの容量や機能によって異なります。薬液搭載量は5~10Lのものが多いようです。ものづくり補助金はドローンにも使える
中小企業庁が行う中小企業・小規模事業者向けの支援対策「ものづくり補助金」はドローンにも利用できます。生産向上のための設備投資費用として、最大で1,000万円が補助されます。ものづくり補助金を利用するためには、事業計画書や申請書を作成しなければなりません。また、各種書類を提出しても採択されるとは限らない点にも注意が必要です。ものづくり補助金の申請については、商工会議所やドローンメーカーにて代行・補助をしてもらえます。
農林水産省の産地生産基盤パワーアップ事業や経営体育成支援事業が使える場合も。
ドローンの任意保険
保険会社によって保険料が異なります。東京海上日動のドローン保険の場合、機体保険がMavic 2 Proの ライトプランで年間13,070円、賠償責任保険が年間6,150円となっています。ドローンメーカーDJI公認ドローン保険の場合、DJI製のドローンを購入すると無償付帯賠償責任保険(登録完了後から1年間)も付いてきます。
メンテナンス費用
ドローンの機能性や安全性を保つために、定期的にメンテナンスを行いたいものです。1回のメンテナンス費用は約1万円~で、機体によっては3万円を超えるものもあります。点検時、修理や部品の交換が必要な場合には別途修理・部品費用もかかります。ドローンによる農薬散布を請負業者に依頼する場合の料金は?
自分でドローンを操縦するよりも、プロに依頼したい方もいるでしょう。国内各地にドローンによる農薬散布代行業者があり、それぞれに価格も異なるので、まずは近隣の業者に連絡し見積もりをとりましょう。低単価なところでは、1a200円程度から請け負ってくれる業者もあります。ドローンの活用で農業をスマート化!規制やガイドラインに則って安全な飛行を
ドローンを使用して農薬を散布する際には、事前に国土交通大臣の許可が必要です。10開庁日前までに申請書を作成し、オンラインまたは郵送、手渡しで申請を行いましょう。申請作業はドローン販売店などの代行も可能です。申請を代行してもらいたい場合には、販売店にて購入前に確認しておくことをおすすめします。
また、ドローンを安全に利活用するために、ガイドラインに則った飛行を心がけましょう。